2008年11月12日
「魔法の色鉛筆」

教室のドアがノックと同時に開いて可愛い顔が覗きます。そして機関銃の様なおしゃべりが始まります。
3月から始めた日本語教室。
エルボルソンの文化センターの教室をお借りして授業をしていますが、我が家からエルボルソンまでは山道を車で30分。私にとっては気軽に行ったり来たり出来る距離ではありません。ですから、木曜日を日本語教室の日と決め、お弁当持参で朝10:30から夕方5:30まで3教室行っています。
お昼は職員さんも帰宅してしまい、午後の授業までの1時間半、文化センターには私と留守番の人だけになります。遊びに来るのは、その留守番の人の5歳になる娘さんなのです。
正直に言いますと、私はあまり子供好きではありません。でもこうして寄ってくる子を邪険にする程意地悪でも無いつもりです。
彼女にとっては「日本人」と話すのは初めての経験だったようで、「名前は?」「幾つ?」などというありきたりの質問にも喜んで答え、聞きもしない自分の家族や幼稚園の事を嬉しそうに話し始めました。そうして私が子供教室用に日本から持って来た24色色鉛筆のケースを机の上に出すと「これ何?」と、とても興味を持ったのです。
「これは色鉛筆」
「開けても良い?」
「どうぞ」
そうしてケースを開けようとするのですが、上の角の二カ所を押さえてから開ける方式を知らず、「開かないよ〜」と困ってしまいました。
そこで素直に開けてあげれば良い物を、私はつい「これはね、魔法で開けるんだよ。」などと言っていました。そして彼女に気付かれないように角を押さえて「今魔法をかけたから、開けてご覧。」と開けさせたのです。
「ひゃあ〜!開いた!凄い!こんな魔法初めて見た。」
その時の彼女の嬉しそうな顔。子供好きな方には、純真な子供を騙す悪いおばさんとお叱りを受けそうですが、私はそのまま本当の事は言わずにいました。
翌週も彼女はやって来て、「魔法の色鉛筆は?」と一番に聞いてきました。
「あるよ。」
「魔法で開けてみて。」
「今日は魔法を教えてあげる。」
「本当?」
私はケースの上に手をかざし、呪文を唱えます。
「ちちんぷいぷい。」
そして2回手を打って、「ちちんぷい!」と叫び、彼女の目を盗んでさっと角を押さえました。
「「開けてご覧」
「開いた。開いた。」
「じゃあやってご覧」
彼女は何度も「ちちんぷい」の言葉練習をして、いよいよケース開けに挑戦しました。でも、彼女に隙が無くて私が角を押さえられずに開けられませんでした。
「どうして??」
「あのさ、手は2回だけ打つんだよ。今3回打ったでしょ。それに、最後のちちんぷいの時は目を瞑るの。」
「あっ、そうか。」
期待満々の顔で再挑戦です。そして今度は上手く開ける事ができました。
「やった!!凄い魔法だ!」
喜んで居る姿がとてもとても可愛く思えました。
本当ならこれで種明かしをしなければいけないのでしょうが、私は黙っていました。
こうして魔法を素直に信じる時期は、きっとそんなに長くはないでしょう。それなら、その貴重な時期に「凄い凄い!」と素直に喜んでいて欲しいと思ったのです。また、彼女が大人になった時、今日の事を思い出して「魔法遣いのおばあさんに会ったことがある」なんて懐かしく楽しく思い出して貰えたら、それも素敵だなあと思うのです。
でも・・・私のした事は、純真な子供を騙した酷い事だったのでしょうか??「子供嫌い」と言われ続けている私には良く分かりません。











