2007年12月28日
「初めの一歩はルピナスの花から」
今、ルピナスの花が満開です。日本名を何というのか知りませんが、長野で養豚実習をしていた時、道路脇の家の庭にこの花が咲いていて、「ああ、なんて綺麗な花なんだろう。」と見ていた思い出があります。 ここに引っ越した当初はこの花は農場に殆どありませんでした。果樹もあまり無く、あったのは若いシプレスの自然林と材木として伐採された1ha程の木のなくなった林跡地(?)でした。そこに馬でも放していたのでしょうか、私達が引っ越した時はイネ科の草もまばらな、砂漠の様な土地でした。 ここを元の様に緑の森に還すことが私達の一つの目標になりました。 りんごやすもも、カリン、さくらんぼなど地元で手に入る果実の種を大量に播きました。記念に頂いた「ふじりんご」の苗木や松の苗木も移植しました。ポプラや猫柳などを挿し木もしました。そして町の道路脇に生えているルピナスも、種になるのを待ちかねて大量に播いたのです。 アンデス山脈の谷間が真正面にあり冷たい西風が直接吹きつけ、真夏でも時々強烈な霜が降り、水もなくカラカラに乾いた土地です。多くの移植苗が枯れました。野ウサギも多く、折角芽を出した苗も根元からぷつんと食いちぎられました。 最初はなかなか成果が見えませんでしたが、先ずルピナスが増え、ルピナスの花園が出来たのです。 それからは目に見えて緑が増えていきました。野ウサギに食べられても食べられても、枯れずにわき目を伸ばし続けたナラやりんごは、いつしか野ウサギが食いちぎられないほど太くなっていました。 もう発芽しないと諦めていたりんごやすももが僅かですが種から芽を出していました。 気が付くとエニシダがあちらにもこちらにもあるのです。 まだまだ森というにはほど遠いですが、それでも確実にここは成長しているのです。 ただ種を播き続ける。選ばずに種を播き続ける。大量の種を播き続ける。そして後は自然に任せれば良いのです。 自然の営みに種を播くという行為で参加させてもらえ、育っていく過程を見続けていける。こんな贅沢な暮らしを出来る事を、心から幸せだと思うのです。

2007年12月15日
「ペリートモレノ岳の野生動物」
今回も前回に引き続きアンデス山脈の一つペリートモレノ岳について。 2216mの山ですが断崖絶壁の山頂に立つにはかなりの熟練が必要な為、私達の行ける山頂手前の万年雪までだと2000mも無いかも知れません。しかも高原台地までの斜面がスキー場開発の為、原生林が大伐採されてしまっています。ですからパタゴニアの登山としての醍醐味には欠けてしまう気もしますが、私達はこの山が大好きなのです。 第一に高山植物の種類が他の山に比べ多い事です。雪解けの12月初めから新年までの短い期間に、白や赤、ピンク、黄色などそれぞれの植物が花を咲かせます。高山植物のお花畑という光景にはほど遠いですが、岩場の中で「あっ、ここにも。あっ、あそこにも」と小さな花を見つけると心が和み、「よく頑張ったね。綺麗だね。」と声を掛けずにはいられません。 第二にイエローアスール岳(2270m)、ピルテュリキトロン岳(2284m)、アスール渓谷など近郊の山々は12月から3月までは人で溢れているのですが、ペリートモレノ岳はスキー場として力を入れているためか、夏は町から山までの公共の交通手段が無く、登山客が驚くほど少ないことです。人が多いのもそれなりに楽しいのですが、自分のペースでゆったりと静かに楽しんで登る方が私達には合っているのです。 第三に高原台地を越えたら、大万年雪のある斜面や、チリ側のアンデス山脈が連なっている雄大な風景、雪解け水の豪快に流れる滝など変化に富んだ登山が楽しめることです。 そして私が何よりも気に入っているのは、この山でオタマジャクシ、野鴨、アカゲラ、コンドルに出会える可能性が高いことです。 別にパタゴニア特有の野生動物では無いのですが、この厳しい気候の中で生きている動物達に出会えるのは本当に嬉しいのです。 特に私には「野鴨」一家との忘れられない出会いがあります。 それはもう数年前、この山への2回目の登山で高原台地の手前の岩場に辿り着いた時です。 ほっとして大岩をひょいと越えようとしたら、なんとその岩の反対側に野鴨一家が日向ぼっこを楽しんでいたのです。こちらも驚きましたが、野鴨一家はもっともっと驚いた事でしょう。間近で見た2羽の野鴨は予想以上に大きく、まだ満足に飛べない雛が5羽ほど居ました。パニックになった雛たちが騒ぎながら群れて逃げて行きます。「申し訳ない」と言う気持ちと「可愛い」という気持ちでその雛たちを目で追っていると、雛とは反対方向で突然「ばたばた」と羽音がしました。「何事か」とそちらへ目を移して驚きました。一羽の親鴨が残雪の上でのたうち回っているのです。 その親鴨は暫くそうしてのたうち回った後、突然すっと立ち上がり飛び去って行ったのです。その変わり身の鮮やかなこと! 「あっ」と思って雛たちの居た岩を見ると、すでに姿は見えず気配さえも感じませんでした。 親の偽傷行為だったのです。テレビで見たり本で読んだりして知っていたのに、親鴨が飛び去るまで、それが偽傷だとは気づかない程鮮やかな演技でした。そして涙が出るほど感動したのです。自然の中で生きるという事は、こうして命がけだけど愛情に満ち溢れて居ることなんだと教えられたのです。 観光開発でメチャクチャにされる自然。目を反らす事は楽で簡単だけど、私は切り倒された原生林に「ごめんね」と詫びながら、大切な事を教えてくれたこの山に登り続けていくつもりです。
トレッキングガイド 山小屋から高原台地までのスキー場林道登山約3時間。 高原台地から万年雪の岩場まで約2時間。 高原台地からチリアンデスの見渡せる断崖まで約2時間。 蛇足ですが、二羽居た親鴨の内の一羽(おそらく父鴨)は、いの一番に飛び去りました。

2007年12月12日
「ペリートモレノ岳の高山植物」
パタゴニアのペリートモレノと言うと、日本の方は必ずと言って良いほど「氷河」をイメージします。勿論以前の私もそうでした。でも、ここに暮らし始めてからは「ペリートモレノ」と聞くと、のうじょう真人から見えるアンデス山脈の一つ、私達の大好きな山しか考えられなくなりました。 2216mと標高はそれ程高くはありません。しかも麓から高原台地の下までスキー場開発でずたずたにされています。14年前はスキー場も小さく、少し登るともうレンガの原生林に包まれ、林道の反対側には川沿いに登山道もあり、本当に気持ちの落ち着く山だったのです。 山小屋の管理人が変わり登山道が閉鎖され、エルボルソンが観光に力を入れ始めたここ数年で「これでもか!これでもか!」と言うほど原生林が伐採され、林道が広がり、スキー場開発が進みました。 それでも私はこの山が大好きです。一時はあまりの無謀な開発に腹が立ち、山が痛々しくて行くことができませんでしたが、「目を反らさずこの山と向き合おう」と思ってからは、毎年一回は登るようにしています。 スキーリフトの最終から少し登ると「高原台地」に着きます。ここは平地なのですが岩場で、木もなくここからかなり大きな万年雪のある山頂の登り口まではかなり歩かなければいけないので観光客はまず来ません。ですから、ここからが私達の楽しい登山の始まりなのです。 そして何もないと思えた岩場も実は小さな高山植物があちこちに生えています。サボテンの仲間が多いのですが、この山でしか見つけられない植物もあり、花も可憐で可愛く「良く咲いたね」と声を掛けずにはいられません。 雪溶けの11月中頃から写真の白いサボテンが咲き始めます。花はこの時期から年末頃までがピークの様です。 夏は直射日光が照りつけ干魃。冬は雪に閉ざされる厳しい気候のこの高原台地に生きる植物達。環境が厳しい程、その厳しさとは裏腹に可憐で美しい花を咲かせるのでしょうか? 麓が人間の手で引っかき回されメチャクチャにされても、ひねくれず、いじけず綺麗な花を咲かせている高山植物。もし人間の欲がここまで伸びて、この植物達を根こそぎ踏み倒しても、私は目を反らさず最後の瞬間までこの花達を見つめていきたいと思っています。 エルボルソンからはハイヤー(45ペソ 1米ドル約3.15ペソ)のみ。公共手段(バスなど)はありません。 駐車場のすぐ上に宿泊可能な山荘があります。年中無休。一泊朝食付き40ペソ この山の断崖絶壁の山頂に立つには結構経験がないと無理かと思います。また万年雪まではかなり急な岩場を登ります。十分注意して体力と技量に応じて慎重に登って下さい。又は高原台地の突き当たりまで行くと雄大なチリ側のアンデス山脈が見渡せます。運がよいとコンドルが出迎えてくれます。 麓から万年雪までゆっくり歩いて約5時間。12月中から一ヶ月は虻が大発生していますのでご注意を!


2007年12月03日
「サウコの花」
我が家には「サウコ」の木がありませんでした。全く同じではないかもしれませんが、日本では「西洋ニワトコ」と呼ばれている木です。 この木は湿気が好きで、水路の下やいつも湿気のある場所ではどんどん成長し、木の周りには落ちた種から発芽した苗木が沢山出ています。 のうじょう真人は西向きの斜面にあり、水路は農場の下の場所を走っているため、殆どの場所に水がありません。家の中の蛇口から出る水は、電気ポンプで水を汲み上げタンクに貯めたものです。ですからタンクが空になればまた電気ポンプで水を汲み上げなければいけません。 引っ越して最初の数年はあまりに乾燥が激しく、一日に何回もポンプで水を汲み上げそれを畑や家の周りに撒いていました。当然夏は電気代が跳ね上がっていました。 ここ数年は緑が増え、草が大地を覆っていて水分の蒸発を抑えていてくれるのであまり人為的な水やりはしない事にしています。 こちらではサウコの花を使ってシャンパンを作ったり、実はジャムにしたりしています。この時期友人の家に行くと、よくサウコのシャンパンを出してくれます。レモンを多く入れるので、発酵レモネードの様で、私はいつも「美味しい美味しい」とお代わりをしていました。 「サウコの苗木が一杯あるから、好きなだけ持って行って。挿し木でも簡単につくよ。」 と言ってもらい、こちらに来た当初は農場に随分と定植しました。でも全て枯れ、やはり、種から播かないとだめだし、土地がサウコには乾燥しすぎて厳しいんだろうなと思って諦めサウコの事は忘れていました。 ところが、昨年夫がニレの木の陰に、かなり大きなサウコの木を見つけ二人で驚いたのです。 「気が付かないもんだねえ〜。」 ここは雨の多い冬の間だけ小川が流れる場所です。きっと周りの木が地下に水を貯めて、そのお陰でサウコが残れたのだと思いました。昨年は一つだけ花が咲き、私達は種になって落ちてくれる事を願ってそのままにしておきました。 今年は数えてみると9つほど花が咲いています。今年もそのまま残して置くつもりです。 のうじょう真人産「サウコのシャンパン」は飲めないけど、代わりに「たんぽぽのシャンパン」に成功したので寂しくはありません。(このたんぽぽのシャンパンは自慢じゃあないですが、かなり美味しいです。詳しくは弊サイトブログ「アルゼンチン味な話」をお読み下さい。) 今年は冬からの干魃で、夏でもしっとりとしていたシプレス林がパサパサで、ルピナスも勢いがなく、マキの木も多くが枯れ始めています。 それでも毎日あちこちから響く木を伐る電動ノコの音。 「もういい加減にして!」と不安で叫びたくなる時に、私はサウコの白い花を思い出します。花は私に 「出来る事をこつこつとね。」 と語りかけている様です。気が付かない間に成長し、花を咲かせてくれたサウコ。 のうじょう真人が緑のオアシスになる第一歩だと信じたいです。