2008年04月28日
「面白い、面白い」
アルゼンチンという国は、住めば住むほど「面白い」と感じます。この「面白い」には楽しいと言う意味と、とんでもない所だ!という二つの意味があります。
日本で生まれ育った私には、時々アルゼンチンの常識とか習慣がどうにも理解不能で困る時があります。また、「ええ〜。そんな考え方もあるんだ!」と非常な驚きを感じる時もあります。
先日、エルボルソンから約270km内陸部に入った砂漠地帯の中にぽつんとある「インヘニエーロハコバシイ」という鉱山関係の町にカオリンと粘土の採集に行って来ました。
私達の車では帰りはインヘニェーロハコバシイで給油しなければ燃料が足りません。心配した夫は事前にインヘニェーロハコバシイ唯一のガソリンスタンドに問い合わせました。
「心配するな。かつて一度も燃料不足になったことはない。年中無休で営業している。安心して来い。」との返事。
信用して予備タンクは持たずに出掛けました。ところが・・・給油のためガソリンスタンドに行くと
「今日は燃料は無い。」と平然と言うのです。
「どうして無いんだ。」「今日中にエルボルソンに帰らなければいけない。」「いつ燃料は来るんだ。」「他に給油できる場所は無いのか?」の質問にゆったりと「今日の2時には来るから待っていろ。」の返事。燃料が無いので車を駅の駐車場に置いて、夫は昼寝。私はぶらぶらと町を散策しました。
そして2時。
「まだ着かない。4時か5時に遅れる。」
そして5時。
「8時には着くだろう。」
流石に「まあその内来るだろう。」とたかをくくっていた私も不安になってきました。このままでは何時給油できるか分かりません。ガソリンスタンドの人に相談しても、「そんなことは知らない。」の一点張り。この町を出ても、途中の砂漠地帯でガス欠になることは目に見えています。仕方がないので取りあえず私だけがバスを乗り継いで8時間かけてバリローチェ経由で家に帰ることにしたのです。バスは早朝5時の出発です。
車の中でパンを囓り、夕暮れに沈む町を見ていたら、「こんな事もあるんだなあ・・・。」と不安を通り越して笑えてきました。
で、結局、私達はその夜10時過ぎ、無事我が家に辿り着くことができたのです。それは燃料がガソリンスタンドに来たからではありません。夕暮れの町で偶然、インヘニェーロハコバシイ唯一の知り合いに出会い、彼が奔走してくれて燃料を調達出来たからです。
友人と言うにはまだ付き合いも浅い彼が、困っている私達を見かね、燃料を持っている友人を紹介してくれたのです。
その人は自分の為に予備に持っていた燃料を気前よく分けてくれました。
そして、ここでは時々燃料不足になることや、今日中にガソリンスタンドに燃料が来る可能性は無いことなどを教えてくれました。
燃料補給出来ないと分かった時、「ええ〜どうしよう・・・」と一瞬途方に暮れましたが、長いアルゼンチン暮らしでそれなりに逞しくなったようで、「まあ仕方ない。何とかなるでしょう。取りあえずこの状況を楽しもう。」と思うことができました。そして実際に、散策途中で素敵な博物館を見つけたし、人の優しさも身に染みました。何よりも家に辿り着いた時、「今日は疲れたけど“面白かった”」と思ったのです。
人はやはり、怒るより悔やむより、笑って楽しんだ方が良いようです。



蛇足;インヘニェーロハコバシイのガソリンスタンドに燃料が来たのは、翌日の夕方4時過ぎだったそうです。


2008年04月17日
「人間が残せる3つのもの」
のうじょう真人には日本の「秋田杉」が育っています。
これは秋田南米交流会さん、秋田県人会(在亜千秋会)さん、Sさん、Iさんのご厚意によるものです。
昨年と一昨年、Iさんがブエノスアイレスで種から育てた苗木を2000km離れたパタゴニアまでトラック輸送で送って下さいました。約80本を我が家、20本をマジン村公営園芸センター、そして6人の友人に2本ずつ贈り移植してもらいました。ブエノスアイレスとパタゴニアの気候と土壌の差、夏の干魃などで残念ながら枯れてしまった苗木もあります。それでも多くの苗木達は厳しい気候に慣れながら頑張って育っています。
先週、パスポート更新の為ブエノスアイレスに行ったので、この機会を利用して送り主のIさんの所へご挨拶に伺いました。Iさんの農場には見事な秋田杉が数多く育っていました。
貴重な秋田杉を送って頂いたお礼を申し上げると、Iさんは「それは反対です。私の方があなた達にお礼を言いたいのです。」とおっしゃるのです。
Iさんは秋田杉の種を播いたその時から、パタゴニアに苗木を送る事を夢見ていたそうです。
緯度が似ている以外、夏の干魃、粘土質の土壌など秋田と私達の農場とでは大きな違いがあり、正直言うと秋田杉達には決して過ごしやすい場所ではありません。それでも千年後を想定して、どんなに大きくなっても大丈夫な様に十分な間隔で移植出来る場所が私達にはありました。
パタゴニアでは食べることができない刺身や握り鮨をご馳走になりながら、Iさんがこんな話しをして下さいました。
アルゼンチンの諺に「人間の残せる物は3つある。一つは子供。もう一つは本を書いて残すこと。そして最後は種を播いて木を残すこと。」というのがあるそうです。
「ぼくには子供はいないし、本を書くなんてとても出来ない。でも木を植えて残すことはできる。だから木を育てているんです。長年の夢だったパタゴニアに秋田杉を植えると言うことが出来て本当に嬉しいんです。」
アルゼンチンにそんな素敵な諺があることに感動しましたが、それ以上にIさんの言葉に心を打たれました。
「木を植える。森を作る。」
それは私達の目標でもあったからです。そして私達にも子供はいません。
木を育てること、森をつくること、それはきっと今の地球に最も必要なことだと思うのです。なぜなら私は自然の森のない地球に豊かで幸せな子供が育つとは思えないからです。
かつて無い程の異常高温、異常乾燥の厳しい夏を乗り切った秋田杉たちが、やっと降り始めた雨に気持ちよさそうに打たれています。
この木が大木となる千年後、二千年後に思いをはせながら、そのほんの一時でもその秋田杉達と同じ大地に立てた事を、とても嬉しいと思っています。