2008年05月26日
「思いやり」
山のない岡崎平野の真ん中で育った私は、山の見える風景がとても好きです。
不思議な縁で今、パタゴニアアンデス山脈の麓に暮らし、毎日山を見て過ごしています。
真っ白に雪を被る冬山、緑に輝く春山、「ああ、登りたいなあ」と毎日見上げる夏山、そして紅葉で赤く染まる秋山。
どの季節も私は大好きです。
パタゴニアは数年前から観光ブームで、毎年観光客数の記録を更新しています。また人口も爆発的に増え、水不足、ゴミ問題、エネルギー不足が深刻な問題となっています。
エルボルソンはパタゴニアと言っても、ペリートモレノ氷河の様な華やかさも無ければ、バルデス半島のペンギンや鯨などの野生動物もいません。ですからトレッキングやアウトドアスポーツで観光誘致をしています。
その為、私の好きだった不便でのんびりとしたそのままの自然が、お客様の為に整備されています。
草ボウボウの素敵な小道は倍以上に広げられ、砂利がひかれました。恐々登った山道には手すりがつけられ、邪魔な木は切り倒されました。オフロードバイクや4X4用に林が切り開かれました。
自然が好きで、自然の中でリラックスしたいと思って来る人達の為に、本当のありのままの自然が、飾られた人間の為の自然に変わりつつ有るように思えるのです。
私達の農場もお客様を受け入れています。でも、その為に草を刈ったり、家を近代的に整備したりしません。
「観光業をするのなら、先ずこの家をもう少し何とかして、周りに花壇や果樹園を作り綺麗にしなさい。」ととても親切に忠告してくれた人もいます。
人にはそれぞれ価値観があり、考え方も千差万別です。ですから、私は反論したり反発したりはしません。私は私の信じる事を信じるままに続けていくだけだと思っています。
それでも整備された山に登った時、手すりに合わせて切り取られた木の幹を見ると、人間の思いやりの無さを恥ずかしく思うのです。
木を切り取る事よりも、せめてそこだけ手すりを付けないでいてあげる事は出来なかったのかと悲しくなるのです。
自然に対する思いやりって何だろう?といつも考え続けていきたいと思っています。

2008年05月12日
「火山灰が降った日」
5月2日、ここから約250km離れたチリ側で火山が噴火しました。ラジオのニュースでアルゼンチンのエスケルと言う町にも灰が2cm積もっていると言っていました。エスケルは180km離れていますが、友人もおり、時々訪れる町です。
ニュースでは「学校閉鎖」「外出は控えるように」「マスクと飲料水が売り切れている」など言っており、火山灰が有毒という噂も流れたようです。
私達はそれをニュースとして聞いており、身近には感じていませんでした。
ところが、6日、エルボルソンの地元ラジオ局では朝から火山灰の事ばかり言っています。
「今日学校は閉鎖」「外出時はマスクをするか口を覆う様」「水は飲んではいけない」等々・・・数日前ラジオニュースで聞いた同じ事を、今度は地元のエルボルソンのラジオナショナルで言っているのです。
でも、私達の農場では蒼い空が広がり、たった17kmしか離れていないエルボルソンで、なんでそんな大袈裟な事を言っているのか分かりませんでした。ところが翌朝外を見ると、うっすらと白いのです。
「今朝は割と暖かいのに、霜が降りている。」と外に出てみて驚きました。それは霜ではなく「火山灰」だったからです。
生まれて初めて見る自然の火山灰。「これがチリから飛んできたんだ!」と私は妙に感動してしまったのです。
翌日の7日、私達は買い出しにエルボルソンへ行きました。町に近づくと灰の量が増えて、まるで雪が降ったようです。地形の関係か、6日は私達の農場では何でもなかったのに、エルボルソンでは灰が舞って大変だったそうです。
お店や家の前では水を撒いて灰を洗い流す作業が忙しそうでした。また、どのスーパーにも飲料水が、また薬局ではマスクが売り切れでした。
やはり「火山灰は体に有害」と言われており、ちょっとしたパニックだったようです。
私は岡崎平野の真ん中で山を身近に感じずに育ちました。それでも、火山灰にはここの人達の様な恐怖は持ちませんでした。もしここに、鹿児島出身の方がいたら、どんな風に感じたでしょう?
勿論自然現象を甘く見てはいけないと思いますが、必要以上に怖がるのもどうかと思います。
人間が自然を支配管理するものだと思っているから、こんな時パニックになるのではないでしょうか。プラスッチクでも何でもゴミは平気で野焼きしているのに、自然の火山灰は「有毒」だと騒ぐ事を、なんだかとても不思議に感じました。

2008年05月07日
「ローズヒップ」
日本ではローズヒップと呼ばれ、実を利用した化粧品に人気が出始めているようですが、こちらでは「ロサモスケータ」と呼ばれています。ヨーロッパからの比較的新しい帰化植物ですが、もの凄い勢いで増え広がっています。
野茨の一種で株中に棘があり、この棘は先端が鉤の様に曲がっていて、少しでも触れると「逃した獲物は逃がさない!」とばかりにがっちり食い込んできます。そして中から無数の細かい棘が出てきて、なかなか抜けません。しかも毒でもあるのか嫌な痛みが続きます。
そしてここパタゴニアの気候風土が余程気に入ったのか、恐ろしい勢いで増えています。
以前から実はジャムやお茶にしていましたが、ここ数年は種を絞った油が主にヨーロッパへの輸出用として注目を集めています。
この地区では自分の敷地内のロサモスケータは目の敵にして根こそぎ刈り取り燃やしていますが、道路沿いの実を熊手の様な専用収穫器でガリガリと収穫している人を時々見かけます。
私達は農場内で、余程のことが無い限りこのロサモスケータも刈りません。帰化植物であっても、棘に悩まされても、この土地が好きで種から育ったのだから、私達が自分の都合で刈り取ってしまうのはエゴだと思うからです。それに、薄ピンクの花はとても可愛いし、今の季節の赤い実も周りの黄葉に映えてとても綺麗です。
あと何回か霜に当たって甘みを増したら、棘に気を付けながら一粒ずつ収穫して、今年もケチャップを作ろうと思っています。それから一昨年作ったお茶がもう残り少なくなってきたので、種を取った後よく乾燥させ、細かく潰してお茶として保存するつもりです。
日本では美顔化粧水として売り出されている様なので、毎朝この実を水の中で潰してそれで洗顔でもすれば、最近めっきり増えたシミもうすくなるかしら・・・?などと期待しています。
正直言うと、薪集めやりんごの収穫時にこの棘に刺されると、痛くて「邪魔だなあ」と思うこともあります。でもその直ぐ後に、「いやいや、私の方が新参者なんだから、ここで一緒に暮らさせてもらえる事を感謝しなきゃあ。」と思い直します。
私も自然の一部として、皆と仲良く共存していきたいと思うのです。